61
吹き上げてくる濃い潮の香り。
あたしは、この香りが好きだったことを思い出した。
海を前にした道路から一段高い斜面に建った、南仏リゾートを思わせる白亜のホテル。
小さな頃、憧れていた。いつか好きなひとと行きたいと。
そんなくだらない願い。
134号線――昔、その国道から見上げて焦がれた景色は、今はこうしてその場から見下ろしているのだ。
目の前には、どこまでも広がる葉山の海。
季節柄か、今ここには誰もいない。
あるのは、波と風の音だけ。
冷たい海風が、皮膚を刺すようにして痺れさせ、あたしは目を細めて海をみつめた。
――結局、一緒に行く約束は果たせなかった。
こうして、ここにひとりで来たのは、気持ちに区切りをつけるため。
あたしの憧れを乗せた――約束の場所で。
彼はあたしのモノではないと。
もう、違う人のモノだと。
十分過ぎるくらい、ここでひとりを感じて認識出来ればいい。
あたしは、手の中の拓馬に貰った紙へと目を落とした。
――告白。
拓馬としてしまった、約束。
バッグから携帯電話を取り出した。
画面を見つめているだけで、心臓が素早く動き出した。
大きな息を吐き出す。
あれだけ強い決心で彼を断ち切ったのに。
今更告白なんて。
左手の中の冷たい携帯電話。
拓馬の指輪の感触を思い出した。
目を落とし、もう一度握り締められてくしゃくしゃになった紙を見つめる。
……きちんと告白して。
それで、おめでとう、って言って、心から祝福しよう。
彼の幸せのために。
紙を握り締め直し、深く息を吸った。
あたしは、携帯のボタンを順番に押していく。
ここまで歩いている間に、紙に書かれた番号は勝手に暗記してしまっていた。
韮崎さんの携帯に直接かける勇気はさすがになかった。
一緒にいる悠里さんや副会長に、着信を見られてしまう可能性もあるし。
拓馬はそれを見越して、この番号をあたしに託した。
こうなったら、もう、勢いだった。
通話ボタンも、迷う前に押した。
呼び出し中に多少の心構えを作ろうと思っていたのに、それが出来上がる前に、ウエスティンホテル東京でございます、と、たった一回のコールで相手は出てしまった。
「あ、の……っ」
思わずどもってしまうと、『はい?』と優しい声に訊き返される。
あたしはもう一度息を吸い込むと、言った。
「今日、そちらで、韮崎家と秋山家の結納が行われているはずなんですけど……韮崎光さんを、お願いしたいんです」
『かしこまりました。
失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
「石田です」
咄嗟に名前を借りた。
「仕事のトラブルだと、お伝えいただけますか?」
『はい。
少々お待ち下さいませ』
耳元で音楽が鳴り出した。
途端に、痛いほど心臓がばくばくとし始める。
その鼓動の音が大きすぎて、保留音と混ざって頭に響く。
永遠と続くように、待つ時間は長い。
あたしは一生懸命深呼吸を繰り返し、その時間をやり過ごす。
本当に随分と長かった。
音楽は幾度もフルコーラスで繰り返される。
そして、中途半端なところでいきなり音楽が切れた。
身体が勝手に身構えて跳ねた。
『大変お待たせ致しました』
韮崎さんが直にすぐ出るのかと思ったら違った。
さっきのホテル職員だった。
『韮崎様でございますが……』
「はい」
ごくっと、喉が鳴る。
『本日、ご都合で、お時間を一時間早められて行われましたので、もう皆さまお帰りになっておりました』
「えっ? 帰った?」
『念のため、ロビーでも声をかけてみたのですが、いらっしゃらなかったようです。
大変申し訳ございません』
「そう、ですか……」
――もう、終わっていた。
ありがとうございました、と言って、あたしは電話を切った。
あっさりしすぎた結末。
手の中の紙が、風に飛ばされた。
電話番号は海に向かって舞って、あっという間にどこかに消えた。
134号線の、向こう側に。
あたしは携帯電話をバッグにしまい、眼下を望む。
半透明なガラスのように澄み渡る空。
紺碧の水面は、絶え間なく優しく揺れる。
頭を白く染めた富士山が、その上には浮かんでいて。
初めて見るそこから望む光景は、知っている場所なのに格別に綺麗で。
今、どうしてこの景色を、ひとりで望んでいるのだろうと思う。
「ばっかみたい……」
呟いても、風と波の音が、小さな声なんて簡単にさらっていく。
ふいにぽろりと零れ落ちた涙も、どこかに吹き飛ばされた。
すうっと、息を吸い込む。
そして一気に吐き出した。
「韮崎光のバッカヤロー!」
海に向かって、おもいきり大声を出した。
「告白くらいさせろっての! ばぁーっか!」
ここなら海も空も風も、あたしの声と気持ちを吸い込んでくれる。
「韮崎光の人でなしっ! 極悪人っ!」
出てくるのは、子供みたいな雑言。
それでもいい。
何でも良かった。放出出来れば。
「約束したのに! 嘘吐きっ!」
だって、区切りをつけなくちゃ。
もう、忘れなきゃ。
何のために、ココに来たの?
次の悪口を探す。
けれどもう見つからない。
見つける前に、また涙が頬を伝わった。
「……嫌いっ」
そんな言葉しか、出てこない。
「嫌い! 嘘吐きなんて、嫌い! 大っ嫌い!」
ううーっと、言葉にならなくなる。
溢れ出てくる涙を、両方の手を使って思い切りこすった。
けれど止まらなくて。
もう、涙は諦めた。
だって、全部、身体の中から絞り出してしまった方が楽。
拓馬の言う通りだ。
本当は、自分の本心を言いたかった。伝えたかった。
好きだって、一言だけでも。
「……違う」
垂らした頭を振った。
馬鹿みたいに、ふるふると。
――違う。
一言だけなんて。
あたしは――伝えて、選んで欲しかった。
何もかも捨てて、あたしを。
好きだって。愛してるって――そう言って、抱きしめて欲しかった。
告白だけ出来ればいいなんて、綺麗ごと。
彼のその手で――あたしを、奪って欲しいって。
それがあたしの本音。
本当の、本当の、望み。
「……好き……」
とうとう口から零れ落ちた。
「好き。好き。……大好き」
押し止めていた気持ちは、涙と一緒に溢れ出す。
「好きで――好きで、好きで、好きで、堪らなかったんだから!」
声を限りに叫んだ。
でも、もう、これでオシマイ。
オシマイに、しよう。
「見つけた」
背後から、急に声が聞こえて。
あたしは、咄嗟にその声の方に振り向く。
途端、肩の辺りを掴まれた。
そして声を上げる隙もなく、いきなり唇が塞がれる。
何が何だか、分からなかった。
けれど、柔らかく温かい、韮崎さんの唇の感触が、あたしを深く深く求めてくる。
あたしの知ってる、韮崎さんのキス。
信じられない。
でも、この温かさも感触も、夢なんかじゃなくて――。
混沌とする中、求められるキスに、あたしも同等に彼の唇に応えてしまう。
だって、止められる筈がない――。
応えられずにはいられない――。
「止まった」
唇が離れて。けれど頬に手は触れたまま、彼が言った。
あたしの目と鼻の先で。
「韮崎さん、どうして……?」
訊きながら、やっぱりどこか期待の方が占めていて。
答えを聞きたくて。けれど、怖い。
心臓だけでなく、耳の後ろまで大きく脈打っていて、バクバクと身体にも頭の中にも音が響いて煩くて。
その緊張の音の中で、韮崎さんが口を開いた。
「俺は、もう、韮崎じゃないよ」
「えっ……?」
「韮崎じゃないんだよ」
それって――悠里さんと、結納だけじゃなく、もう籍を入れたってこと!?
他のものよりも何よりも、あたしだけを選んで、今ここにいるわけじゃないの!?
「じゃあ、どうしてあたしのところに来たのっ!?」
あたしは韮崎さんの手を解き、走り出した。
今、そこから逃げ出すしか出来なかった。
「瑞穂!」
追いかけてくるのは、迫る気配と足音で分かった。
けれどあたしは全速力で走って逃げる。
来てくれたことに、馬鹿みたいに期待した。
全て捨ててあたしのところに来たのだと。
――だけど違った。
自分のモノにはならないと分かっていても、傍にいてと言われたら、辛くても離れられなくなる。離せなくなる。
死ぬほど一緒にいたいけど、会ったらいけないひと。
これ以上、もう、苦しめないで!
ホテルの敷地内なんて、どこに逃げていいのか分からなくて、あたしは134号線へ出る坂道を下った。
いくら低めのヒールを履いているからって、下り坂を駆け降りるのは危険すぎる。
けれど、脱いでいる余裕なんてとてもなくて。
あ、と思ったときには、身体中に衝撃波。
分かっていたことだけど、思い切りすっ転んだ。派手に。
腕、膝、腿、足首――ちりちりと焼けるように内側に擦り上がる痛み。
「おいっ! 大丈夫かっ!?」
「いたぁい……」
こんなはずじゃなかったのに。
本当に最悪。格好悪い。
「瑞穂っ」
韮崎さんに、上半身を起こされ支えられた。
そして彼の指先が、膝の近くにそっと触れた。
擦り切れたストッキングに、血が滲んでいる。
「痛っ!」
「大丈夫か!? ホテルで手当てしてもらおう!」
韮崎さんは、あたしを立たせようと身体に手を回す。
「やめて! 行かないっ!」
あたしはそれを振り払った。
けれど、手首を取られてしまう。
「そんなわけにはいかない! 怪我してるだろ!」
「ほっといてっ!」
「放っておけるわけないだろ!」
「もう、やめてよ、そういうの!
あたしのところに来ないでよ!」
あたしは取られている反対の手で、強く彼の胸を押して身体を突き離した。
なのに、その突き離そうとした手まで結局取られた。
それは力強くて――。
「瑞穂が一番大事なんだよ!」
言われた言葉に、目を見開く。
「佐藤拓馬に渡したくなかった! 俺だけのものにしたかった! だから来たんだ!」
必死の形相で訴える彼に、あたしの抵抗する力は一気に緩んだ。
あたしが心から欲しい言葉を、今彼が口にしている――。
韮崎さんは、荒げた気持ちを落ち着かせるように、一度深く息を吸った。
そして、あたしをみつめる。
あたしは、彼の次の言葉を待つ。
「もう会うつもりはなかった。
瑞穂の幸せを壊したくなかったから。
瑞穂は、佐藤拓馬を大事に思っていて、結婚するんだと、それを望んでいるんだと、そう思ってた」
「………」
何も言えなかった。
韮崎さんにそう思っていてもらうために、あたしはあのときサヨナラを言ったんだから。
「だから、静かにそれを見守ろうと、幸せにさえなってくれればそれでいいと、そう思ってた。
けど、ホテルに相川が来たんだ」
「……相川さん?」
韮崎さんのところにも?
「瑞穂は、佐藤拓馬と、付き合ってなんていないって。
昔、いじめられて、凄く傷付いて、逃げるように葉山から離れて東京に行ったって。
それなのに、俺のために、結婚しようとしてるって」
最後のところだけは間違ってる。
拓馬と結婚なんて、最初から最後までするつもりはなかった。
けれど、言えない。
「俺のために、ずるい女の振りまでして、身を引いたんだろう?
それを知ったら、いてもたってもいられなくなった。
そんな結婚、させられない。
佐藤拓馬から奪う覚悟で、約束の場所を探した。葉山の小学校全部回って。でも、いなくて。
もう、間に合わなかったんだって思った。
けど、諦めることなんて出来なかった。
瑞穂が行きたいって言ってたホテルを思い出したんだ。海の真ん前のホテルって……」
奪う覚悟で――。
探してくれた、あたしのこと。諦めないでくれた。
行きたいって言った場所も、覚えていてくれた。
信じられないような、でも奥底では望んでいたこと。
胸がいっぱいになる。
けれど――。
「待って。悠里さんは……?
それに、もう、韮崎じゃないって――」
韮崎さんは、あたしの質問に、もう逃げないと悟ったのか、ゆっくりと掴んでいる手の力を抜いて。そして言った。
「鈴木なんだ」
「え……?」
「養子縁組を解除――韮崎家と離縁したんだ。
だから俺はもう韮崎光じゃない。鈴木光だ」
「……離、縁?」
「結納の前に、鈴木光として、全てを打ち明けたんだ。
工場と東和重工のこと。父親のこと。養子のこと。悠里との関係も。
当然、こっちが言う前に、向こうから破談された。
もちろん、そうなることは分かっていたし、悠里と結婚する気はなかった」
「ど……どうして……?
だって、韮崎さんは――」
こくりと彼はひとつ頷く。
「悠里には悪いことをしたと思ってる。
悠里の気持ちは分かっていた。俺を深く愛していること。俺は、その気持ちを利用していた。それに、アイツは俺の本当も姿も知っていた。それでもいいと、アイツは言った。
けど、このまま結婚することは出来なかった。
俺は、悠里のことを愛していない。
これ以上、過去に囚われるのはやめたんだ。
鈴木光として、未来を歩いて行くことにした。
ひとりで、自分を――鈴木光として、生き直そうと思った」
「生き、直す……?」
「東和重工の重鎮に収まって、自分の思い通りに動かし――秋山修一郎を内側から徐々に追い立て、失脚させ、大切な物を全て奪い、二度と立ち上がれないようにすることが、俺にとっての復讐だと思っていた」
「………」
「けど、間違ってた。
そんなことをしても、虚しいだけだって、気が付いた。
所詮、秋山修一郎の力を借りて上に上がるしかない。そしてそこに上がるその過程も、上手く利用していたつもりが、ヤツの掌の上で踊らされていた。俺は、手駒のひとつでしかなかった」
手駒のひとつでしかなかった――そう言う彼の顔は、落胆しているものではなかった。
むしろ、強さを持った瞳で。
「復讐するなら、自分の力で見返さないでどうするって――。
東和重工じゃない場所で、戦うよ。
自分で会社を興すことにした。
そして、いつか越えられるくらい大きくなるよ。
その上で、自分も幸せになる。
そうすることが、親父とお袋に対する供養で、きっと一番彼らが望んでいることだって思う」
浮かべた微かな笑顔は、彼の両親に向けられたものだ。
強いように見えて、脆さを持ったひとだと、そう思っていた。
けれど今、もう、その脆さや弱さは見えなくて。
彼は、自分自身で、過去を乗り越えたのだ。
「……うん」
あたしは、頷いた。
「あたしも、そう思います。
きっと、お父様もお母様も、そう望んでる」
――前へ踏み出した彼を。
瑞穂、と、彼があたしの名を呼んだ。
「それを気付かせてくれたのは、瑞穂だよ」
「あたしは、何も……」
彼は、首を横に振った。
そして、苦しげな顔をして、あたしの手をもう一度力強く握る。
「ずるいと思うよ、今更。
瑞穂を選べないと言って、他の男の手に委ねようともしたくせに。
本当は欲しくて堪らなかった。誰にも渡したくなんてなかった」
真摯な目が、あたしをまっすぐに捉え、言った。
「瑞穂、愛してる」
堪らなく、愛しさが湧き上がった。
あたしが欲しくて欲しくて仕方なかった韮崎さんの心からの愛情。
言葉と誠意。
「ず……ずるい……。
本当にずるいよ、今更……」
言いながら、目頭が痺れ出す。
言葉も震える。
「わかってる! けど、もう離さない!
俺のことが好きだって、叫んでたろう!
それを聞いて、離せるもんか!」
止まっていた涙が、我慢出来ずに、また一気に溢れ出た。
そんな風に、強く求めて欲しかったんだ。ハッキリと言葉にして。
ようやく、聞けた。韮崎さんの気持ち。
あたしも――。
「離さないよ……。もったいなくて離せないよ……。
だって、好きだもん。凄く凄く凄く、好きなんだもん。
死ぬほど好きだって、本当はずっと言いたかった!」
あたしの告白に、うん、と、彼の声が言った。
そして、言ったのと同時に唇がおりてきて、あたしは言葉でもう何も答えることは出来なかった。
けど――合わせた唇で応えた。
柔らかく吸って、絡めて。
ゆっくり、ゆっくりと。そして激しく。
思考が沼に溶けていくようだった。
脳みそが蕩けて、何も考えられない。
ただ合わされた部分から、彼の熱と想いを感じて。
身体の力も抜け落ちて、背中に回された腕にしっかりと支えられる。
垂れ下がる頭部も。
「……っつぅ……」
膝の傷に彼の身体が触れて、思わず声を漏らしてしまった。
甘い夢の中からいきなり意識を引き戻されたようだった。
唇が離れて、目を開けると、心配そうに眉を寄せる彼の顔がある。
「ゴメン。痛かった?」
「……平気」
続きが欲しくて瞼を閉じたけれど、一向に唇はやってこない。
「やっぱ、先に手当てだな」
彼がそう言ったかと思うと、いきなりふわりと身体が浮いた。
お姫様抱っこで。
「……え! ちょっ……!」
「この続きも、話の続きも、手当てのあとに、部屋でゆっくりしよう」
――部屋で、ゆっくり――。
その言葉に返事はしなかった。
けれど、もう抵抗もしない。
あたしたちの時間は、これからたっぷりある。
時間をかけて、丁寧に、今迄の気持ちの隙を埋めればいい。
あたしを抱えた彼は、ホテルの建物に向かって歩き始めた。
「光」
あたしは初めて彼の名前を呼んだ。
腕の中で、すぐ上にある顔をみつめる。
「キズモノにした責任、取って」
意味は、分かるよね?
「取るなと言っても、取るよ」
彼はそう答えて、胸の上にあるあたしの手に口づけた。
――薬指の付け根に。
「でも、今、俺は、もう何もないよ。何もなくなった。
ただのプータローだ。瑞穂に贅沢させてあげることは、きっと出来ない。
それでもいいか?」
その確認事項に、あたしは、遠慮なくにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、あたしに贅沢させるために、頑張って」
――本当は、何もいらない。
高価な物も、贅沢も、光がいないと意味がない。
どんなに高い指輪よりも、指にくれたこの口づけの方が、あたしにとっては価値のあるものだよ。
けど、前を向いて。
下なんて見ないで。
もう、振り向かないで。立ち止まらないで。
失くしてしまったものの大きさよりももっと、新しい人生を大きくして。
だって、そうして――幸せになることが、光の復讐でしょ?
鈴木光の新しい人生を、一から二人で創り上げていこう。
彼は、くっと笑った。
「――もちろん、死ぬ気で頑張るよ、お姫様」
あたしは返事の代わりに、彼の首へ腕を回し、耳のすぐ下に口づけた。
そして目を閉じ、身体を全て委ねる。
吹きつけてくる風は冷たいけれど、彼に包まれたぬくもりが温かかった。
優しい振動と、潮の匂い。
小気味良く繰り返される波の音。
こうしていると、海に抱かれているようだった。