53

選択権など端からあたしには与えられていないようだった。
考える暇などなく、あたしは「はい」とだけ答えた。


「佐藤君、君もだ」


力のある者の言い方は、拓馬に対しても同様だった。

「来たまえ」と、まるであたし達の上司のように命令を下すと、さも勝手知ったるといった風を吹かせ、先だって副会長は歩き始めた。
皆、黙ってそれに従い、彼の後ろを付いて歩く。

部下に取り囲まれて横柄に歩く会社重役――テレビドラマの中のひとコマのような光景は、ある意味現実味がない。
けれど、あたしと拓馬も今はその中の一員で、一番後ろを付いて歩いた。

俯き加減であたしよりも前を歩く悠里さんは後ろ姿で、表情は見ることは出来ない。


誰も一言も口を開かないまま連れて行かれた場所は、あたしの足を踏み入れたことのないフロアーだった。

その階の、とある一室のドアの前には、一人の女性が待ち構えて立っていた。
黒のひざ丈タイトスカートにジャケットと、真っ白なシャツの首元にはプッチ柄のスカーフが、シンプルかつ品良く巻かれている。
いかにも誰か上役の秘書といったふうだ。

その女性が深々とこちらに一礼し、部屋のドアを開けた。
促されるままにあたし達は開かれた部屋に入り、ソファーに腰掛けた。
当然のことながら、秋山修一郎の取り巻き達は、一緒に部屋に入ることはなかった。

どうやらここは、重役用の応接室らしい。
普段あたし達平社員が使うような会議室や応接室よりもずっと室内の造りや置いてある
家具は高級そうだ。
けれど、厚みのある絨毯敷きの床も、今座っている革張りのソファーも、その心地良さを実感するほどの余裕はさすがになかった。

誰も口を開かなかった。
張りつめた空気が、ただ呼吸することさえ難しくさせる。
あたしも拓馬も悠里さんも、ソファーには浅く座り、膝の上で手を握っていた。
ただ一人副会長だけが、ソファーに深く凭れ腕を組み、どっしりと構えていた。


話があるって……一体いつになったら始めるんだろう……。


そう思ったときだった。
シンとした中に、ノックの音が響いた。


「韮崎です」


ドキッとする。

低い、彼の声――。


韮崎さんまで呼ばれているなんて……。


「入りたまえ」


戸口の方を見もせずに副会長が言うと、ドアが開き、そこから韮崎さんが室内に静かに入ってきた。
そして一礼すると、ソファーに座ることはせずに、彼女の横に、彼は立った。

副会長は大きな息を吐き出してから

「揃ったな」

と、じろりと並んだ顔ぶれを見回した。


――揃った。

……それは、これから話し合うべき内容が、安易に想像できる言葉だった。


あたしは音を立てないように、そっと固唾を飲み込んだ。


「随分な噂が立っているそうじゃないか」


静かに、けれど、怒りを含んだ重厚感のある秋山修一郎の声が言った。
予想通りの言葉だった。


「どういうことか、説明してくれるかね、韮崎君」

「お爺さま……!」

悠里さんが、口を挟んだ。

「何度も言ったじゃないですか。
葉山さんの恋人は、目の前にいらっしゃる佐藤社長です。
こんなことは……」

「お前は、黙っていろ」


重みのある声で、またシンとした張り詰めた空気に戻った。
悠里さんは、やはり続けることは出来ずに、唇を引き結び俯いた。


「私は、韮崎君に訊いているんだ」


副会長は、再度韮崎さんに向かって、ことさらゆっくりと語調を強くして言った。


韮崎さんは、何て答えるんだろう。

あたしが何かを言うことなんて出来なかった。
きっと余計なことになってしまう。

あたしは、打ちつけてくる心臓の鼓動と闘いながら、身じろぎひとつもせずに息を飲み、韮崎さんの出方を待った。


「噂とは、どういうことでしょう?
私には、何のことか分かりかねます」


皆が韮崎さんに注目した。

彼は顔色も変えることなく平然としていた。


「分からない!? 私の耳にも届くくらいだぞ!
この葉山とかいう女子社員と君が、できているという噂が流れているじゃないか!」

「初耳です。それに、噂はあくまでも噂にすぎません」

「ふざけるなっ!」


ビビッと、空気を裂くような怒声が響いた。
テーブルの上の副会長の拳は、わなわなと震えている。
またしても室内は静まり返り、自分の心臓の音だけが耳の後ろから響いてくる。


「歓迎会のとき二人で先に帰ったり、九州への出張を追いかけていったり、それは事実だろう! 裏は取ってある!」


鋭く指摘され、ぎくりとした。

裏って――どこまで知っているのか。


韮崎さんは、小さく一呼吸し、冷静に答えた。


「歓迎会のときは、具合が悪くなって男性社員に絡まれていた彼女を見かねて送っただけです。
出張は、相手側との問題が発生して、彼女一人では対応出来なかったので私が向かいました。
どちらも上司として極当然のことです」


ひとつひとつの言葉に、あたしは傷付いた。

妥当で、きっとこの場では一番無難な回答。

――けど……。
それは、あたしのためじゃなく、悠里さんとの結婚のため。

そんな言葉は、本当は聞きたくない。


「当然!?」と、副会長は、また大きな声を上げた。


「噂が立つような行動が、当然だと言うのかね! 悠里がいるにもかかわらずっ!
君は、悠里の顔も、私の顔も、ものの見事に潰したんだ!
この事態をどう収拾するつもりだね!」

「秋山副会長」


今度は拓馬が、落ち着いた口調で荒れた空気を切った。


「彼女は――葉山瑞穂は、私の恋人です。
その噂には、私たちも困っていたんです」


あたしは目を見張って拓馬を見た。


また、そんなことを――!


けれど今この状態では、あたしと拓馬をそういう関係にしておくことがベストだろう。
その言動の影響力に黙って助けを求めるしかなかった。

あたしはどうにもならない葛藤に、膝の上の手を握り締めた。
拓馬はそのまま続けた。


「彼女と韮崎さんが何かあるなんて、考えられませんよ」

「考えられない?」

「ええ、考えられません」


はっ、と、副会長は鼻先で笑った。


「以前はかなりの遊び人だったらしいな、彼女は。
君と付き合い始めたのは最近だそうだが、いきなり真面目になったのかね?
韮崎君がTWフードに出向してからたった数カ月で――彼女はどれだけの数の男と付き合って噂が立ってるって?」


意味を含んだ嘲笑をしてみせた。

あたしは一気に顔が熱くなった。
けれど、何も言い返せず、奥歯を噛んだ。


「くだらない噂話を、全て鵜呑みにしてらっしゃると?」

「噂じゃなく、事実だろう」

「とにかく、彼女を目の前にしてわざわざ選んだ言葉だとしたら、いくら秋山副会長と言えど許しませんよ」


拓馬の怒気を帯びた声が室内に静かに響いて、驚いた。


天下の秋山修一郎にはむかうなんて――!


けれど、は、と、副会長は笑った。
怒るどころか、まるで拓馬を評価したような笑いだった。


「確かに、失礼なことを言った」

「………」

「君たちが付き合うことには、私も賛成だよ」

「光栄です」

「彼女を大事にしたまえ」

「はい、そのつもりです。
彼女とは、この先のことも考えています。
もちろん、彼女次第ですが」


と、拓馬はあたしの方へ顔を向けた。
同時に皆の視線が集まった。

あたしは、そこで頷くべきなのだと、分かっていた。
けれど、なかなか出来ない。

韮崎さんと、目が合った。
濡れたような黒い瞳。
そこで、決心した。


「あたしも、です。
だから、こんな噂は――韮崎さんとの噂も、迷惑なんです」


しんとした。
その中で、副会長は小さく息を漏らし「ともかく、」と、韮崎さんに険しい顔を向けた。


「噂になっていることが問題なんだ。
何のためにココに出向させたと思ってるんだ。冗談じゃない。
もうほとんど手筈は整っているんだ……今更引くことが出来ないのは、分かっているだろう」


手筈が整ってる?
今更引くことは出来ない?

それは――韮崎さんの、東和重工でのポストってこと?
ウチの会社で業績を上げて、認められたらじゃ、なかったの?
初めから――ウチに来る前から、もう決まっていたっていうの?


「それに、明日から一緒に出張があるそうじゃないか」

「同じチームにいるのですから、それはごく当然のことですし、二人きりなわけでもありません」

「君を行かせるわけにはいかない」

「それは、困ります。今回のプロジェクトの大事な段階です。
私が抜けるわけには――」


許さん、と。
重厚感のある一声が、韮崎さんの声に被さって落ちた。


「とにかく、そんなことは許さん。
噂が本当ではないにしろ、流れているのが現実だ」

「ですが――」

「反論も許さん。
それに、今のまま、この会社にいさせることは出来ない。
明日から社に戻れ」


戻れ?
何、それ……何を言ってるの?


韮崎さんも同じように理解できなかったのか、言葉を発せずに目を剥いたまま副会長を見た。
副会長は、もう一度言った。


「すぐに東和へ戻るんだ。
この会社には、上手く言っておく」


上手く言っておくって何?
上手く言えば、ウチの会社のことなんてどうでもいいって、そういうこと?
何よ、それ。
そんなのって――!


「待って下さい!」


思わず、立ち上がっていた。
皆の目がまたあたしに集中した。


「そんなの横暴です! 職権乱用です!
成果を出して来いって、仕事っぷりを見せてみろってポンと出向させて、問題が起きたら私情で戻れなんて、勝手過ぎます!
今、ウチのプロジェクトは、一番大事な時期なんです!
今まで――韮崎さんは、TWフードの一員として一緒に頑張ってきたんです!
こんな中途半端で、放り出させるようなこと、させないで下さい!」

「大事な時期……か。
悪いが、ウチにとっても、今もっとも大事な時期なんだよ」

「ポストの件ですか」

と、拓馬が口を挟んだ。


ポストの件――。
現会長が引退して、副会長の秋山修一郎が会長兼CEOに、そして、韮崎さんがCIOに就任する……そのこと?


「知っているなら分かるだろう?」


副会長は、ぎろりと拓馬を睨んだ。


「社内での反対派を抑えて彼の就任計画を円滑に進めるために、TWフードに出向させたんだ。
社内にいると、反組織の妨害もあってな。ならば土台が出来上がるまでの間、彼はTWフードで実績を作っていたほうがいいってね。
その方がこちらとしても動きやすいんだよ。何せ、ウチは部門も多いしな。
ウチでの彼の功績は認知されているし、今回TWフードの業績を上げたほうのが、他社でも出来ると見た目も麗しいし、周りを納得させやすい」

「けど、もし、ウチで失敗したら……」


あたしは思わず疑問を投げた。
けれど、

「失敗は、ない」

きっぱりと副会長は言い切った。


「どうして言い切れるんですか!?」

「とにかく、これはもう決まっていることなんだ」


……決まってる?


「どういうことですか?
確かに、やってるあたし達からしてみれば、良くなる方向へ行く方にしか見てないですけど。
でも、絶対なんかなくて……」

「これ以上、君に話す義務はない」

「ちょっと、待って下さいっ」


声を上げたあたしを制するように、そこで拓馬の手が横に伸びてきた。
あたしは口に出そうとした言葉を止めて、隣を見降ろす。

拓馬は淡々と言い始めた。


「韮崎さんがTWフードにいるのは、元々短期間の予定だ。
その間に、KPIを――重要業績評価指標――つまり、全体的に店舗の目標が達成できるように指標が上がればいいんだ、一時的にでもね。何も、純利益を上げろと言っているわけじゃない。
しかも、今回に限っては、プロジェクトに参加した店舗のみでいい。
ならば、月の中間の地点で、売り上げ目標を満たしそうにない店舗のみ、それが満たされるように投資する――そういうことですよね?」


拓馬は、副会長に向かって確認するように目を向けた。


ちょっと待って?


「投資って……それって、どういうこと?」


あたしは隣の拓馬に詰め寄るように訊くと、彼は唇の片側を上げた。


「作為的に客数を増やす。ウチの会社のようなところに依頼して、調査名目等で店舗に客を送り込めばいい。
ようするに、サクラみたいなものだな。
予算は、まぁ、失敗は元々少ないって考えてれば、大した金額にもならないだろうし、調査費とすれば問題ないだろう。
そんな風に一時的に売り上げを伸ばすとか客数を増やすって、狡賢いコンサルが、次の仕事も継続してもらうためにやることもあるって耳にする。その場合はもちろん、マイナスにならないようにその経費も上乗せしてコンサル側が請求するわけだけど、今回はわざわざクライアント側がそんなことを意図的にやろうとはね」


副会長は片頬を歪めた。


「佐藤君は想像力が豊かだな」

「想像だと? 元々、そうするおつもりだったんでしょう?」

「もうその辺でいいだろう。
所詮、想像は想像だ。それに、まだ結果も出ていないことに、あれこれ言っても仕方ない。
ともかく、こんな噂で全ての計画を潰されるわけにはいかない」

「よくなんて、ないです!」


あたしは上から副会長を思い切り睨んだ。


今迄やってきたことが、全部無にされたような気分だった。

店が良くなるようにと、そうして少しでもお客様の居心地の良い店にして客数を増やしていこうと頑張ってきたのに――。

結果なんて、駄目でもどうにでも操作出来ると。
お前たちの会社なんて本当はどうでもいいと。
全てが計画の上だと。
今、そう言われている。

そんなの、良いわけがない!


「あたしたちは、会社のために、店のために、頑張ってるんです!
韮崎さんだって、同じです! 本気で一緒にやってきたんです!
それに、韮崎さんがチームから抜けたら、ウチはどうなるんですか!」

「東和に戻っても、指示くらいは出来るだろう?」

「そういう問題じゃありません!」


副会長は、大きな声を上げたあたしを冷ややかな目で見た。
そして、低い声で韮崎さんに向かって言った。


「いいか、これは、頼んでいるわけじゃない。
命令だ」


こっの!


「クソジジイっ!」


バン、と、テーブルを両掌で叩いた。


「そんな簡単に……! いくら子会社だからって、馬鹿にしてんの!?
あたしはこの会社の、TWフードの社員よ!
自分の会社の、自分のプロジェクト――仕事を、大事に思ってるの!
アンタの私情で、都合良く動かさないでよ!
あたしも――韮崎さんも、駒でもネジでもないんだからっ!」


熱い血が煮えたぎっていた。
体温も上昇している。
掌も震えていた。


「葉山」


拓馬が抑制するように呼び、あたしは唇を噛んでそちらを向くと、彼は首を横に振ってみせた。


「今後は、オレがサポートするから、心配すんな。
このプロジェクトは、オレのプロジェクトでもあるからな」


拓馬は、虚をつかれたような目をしている副会長と、何かを訴えるような目の韮崎さんを交互に見た。


「副会長、韮崎さん、そういうわけで、韮崎さんが東和重工に戻っても差し支えないように、私が全面的にバックアップするのでご安心を。
明日からのフィードバックも、私が同行します」







拓馬に促されて、あたしはヤツと一緒に先に退室した。
そのときに掴まれた手首が、戸口から出てドアが閉まるとぱっと放された。

誰もいない廊下。
かつ、と、拓馬の靴の音がして、あたしから少し距離が離れる。
ふう、と、疲れた、とでも言うような、息。


「よく、堪えたな」


拓馬の一言目がそんな言葉で、目頭が熱くなった。
てっきり、やっぱりもう諦めろ、って言われると思ってたから。


「堪えてなんか、なかったじゃない。
副会長に、あんな暴言……」

「そういう『堪えた』の意味じゃねぇよ。
オマエは、頑張ったよ」


ぽん、と、後頭部にヤツの掌が触れた。

こんなときに、こんな言葉。
……ズルイ。
こんなの、拓馬の吐くセリフじゃない。

込み上げてきそうな塊を、あたしは身体に力を込めて堪える。


韮崎さんは、それでいいの?
こんな扱いをされても、下された命令をきくの?
目標を達成するために?

……残されたあたしは、どうすればいいの……?


言いたいことや吐き出したいことは沢山あるけれど、今は言葉にする気力はなかった。

拓馬が止めなければ、あたしは韮崎さんをもっと困らせるような暴言を副会長に吐いていたかもしれない。

韮崎さんを守りたい気持ちと責めたい気持ちの両方が、身体の中の側面から強く対峙する。


拓馬に今度はぽんと肩を優しく押され、無言で歩き出した。

エレベーターの前まで来ると、拓馬は「なぁ」と足を止めた。


「オレはさぁー、すっげー悔しいわ」

「………」

「悔しい」

「………」

「オマエは、どこまで我慢すんの?」


どこまで――?

そんなの、あたしにだって、分かんないよ。


後ろの方でドアが開く音がし、それが閉まった音がした。
あたしも拓馬も音の方へ振り向いた。


「葉山さんっ」


悠里さんは、低めのヒールの音を廊下に響かせながら、小走りにこちらへと近づいて来た。
目の前で止まると、唇の形を歪め、眉の形も歪め、申し訳なさそうにあたしを見た。


「これ、忘れ物です」


さっき貰った拓馬の本だった。
おずおずと差し出される。


「お二人とも、こんなことに巻き込んでしまって、ごめんなさい……」


深く頭が下がった。


「……いいえ」


いいえ、としか、今言いようがなかった。

本当は――この顛末は、あたしが原因なのに。
あたしが、彼に近づかなければ。


それ以上何も言えずに本を受け取ると、彼女は頭を上げ、ちらりと拓馬の方を見た。
そして、今度はあたしの方を向いて、遠慮がちに言った。


「少し、お話出来ますか……?」

「あっ……はい……」


悠里さんに答えると、拓馬は気を遣ったように言った。


「私は、これから会議があるので、これで失礼します」

「すみません……」

「いえ。
葉山、明日からの件、早めにスケジュール送っておいて」

「え、ああ、うん」


会議?
休みじゃなかったの?

よくよく見てみれば、拓馬はスーツ姿だ。
本当に会議があるのか、休日にもスーツを着る趣味なのか、それとも……ウチの会社に来るためにわざわざ着てきた、とか……じゃあないよね?

それに、本当に明日からフィードバックに同行してくれるの?
――韮崎さんの、代わり、に……。


「では失礼します」


拓馬は悠里さんに一礼すると、すぐに到着したエレベーターに乗った。

あたしと悠里さんは、その場に立ち拓馬が消えていく姿を見つめていた。

目の前のドアがきっちり閉じ、エレベーターの階数表示のランプが動き出すと、悠里さんはこちらを見た。
けれど、目が合っても、なかなか口火を切ることが出来ないようだった。
仕方なく、あたしの方から訊いた。


「韮崎さんは……?」


悠里さんは、こっくりと頷いた。


「祖父とまだ話し合ってるわ。
祖父はあの通りだから、きっと色々言われてる……」

「なのに――二人きりにさせて、いいんですか?」

「ええ……これくらい、当然だわ」


当然?


耳を疑った。


「彼と別れて下さい」


続けてそう言った彼女に、二度耳を疑い、目を見張った。

  

update : 2010.11.12