河西くんの事情
正直、すっげぇ、ツンケンした女かと思ってた。
プライドの高い女だって。
だってさ。男となんか、ぜってぇ話しねーし。
女友達だって少ないし。
誰かが話しかけても、冷めた対応。
――この女。
長瀬 雪乃ってヤツ。
目立つんだよ。妙に。
だってやっぱ、かなりの美人だしさ。スタイルめっちゃイイし。
だけど最近、分かっちゃったんだよな。仲良くなってきたらさ。
コイツ、根っこに何か根深いモノがあるってゆーか。
傷、つーの?
何か、そしたら妙に気になっちゃってさ。しょうがない。
「凄い人だね」
少し驚いた表情で雪乃が言った。
クリスマスイブ。原宿駅の表参道口。
表参道は、当たり前のように人が溢れ返っている。
そんなにみんな表参道歩きたいのか、つーくらい。
「地下鉄で表参道まで出れば良かったな」
オレはそう答えたけど後の祭り。
ここで降りたんだから、この人混みを歩いていかねば。
「零んちって、近い?」
「15分くらい。
でもこの状態だともっとかかるな」
零、とは――オレの親友。雪乃の好きなヤツ。
今日学校の仲間内でやるクリスマスパーティーに、『ぜってぇ来いよ』とは言っておいたけど、アイツのことだからきっと来ない。
だからわざわざ迎えに行く。南青山のヤツの家まで。
迎えにまで行けば、さすがに嫌々でも来るだろ。
――雪乃のために。
自分でも馬鹿だな、とは思う。
でも、何か、ほっとけないんだよ。
悲しむ顔、見たくないっつーか。
マジで、馬鹿?
あのいつも無表情だった雪乃がさ、初めてオレに最高の笑顔を見せたとき。
何かさ。気位のめちゃめちゃ高い誰にも懐かないようなシャム猫がさ、懐いた気分てーの?
ヤラれちゃったんだよ。
その笑顔とえくぼに。
イブに女と二人で過ごせないとか、女に不自由してたわけでもない。
オレって自分で言うのもなんだけど、結構イイ男。
それなりに女は寄ってくる。
だけど、ま、こんな日があってもいっか、なんて。
横でコイツの笑顔が見られれば、それでいっか、なんて。
マジで馬鹿だな。不毛なヤツ。
自分でもちゃんと分かってる、ぜ?
「これじゃあ零んちに着くまでに、はぐれちゃいそう」
少し心配そうに、人混みを見つめながら言う雪乃。
これが他の女なら黙って手を取る。それが普通、つーか、当然。
でもさ。コイツ、男とそーゆーの、極端に嫌がるんだよな。知ってる。
それがコイツの根っこの深いモノだってことも。
「心配なら服の端でも掴んでろよ」
オレがそう言うと、雪乃は少し恥ずかしそうに上目遣いで見上げてきた。
大きなブラウンの透き通った瞳に、オレが映し出される。
可愛いな。やっぱ、コイツ。
マジで、やべぇ……。
「ゴメン」
雪乃は小さくそう言うと、オレのジャケットの端を遠慮がちに掴んだ。
「行くぞ」
と、オレは先だって歩き出す。
雪乃は一歩遅れてオレのあとに付いた。
まぁ、いっか。こんなクリスマスイブも。
龍さんに言ったら、馬鹿にされそうだけど……な。
END